若くしてスペインを代表する舞踊家とまで言わ
れるに至ったこの人は、堅実なステップをベー
スに、その節度の美学を守り抜くため、瀬戸際
であえて動きを抑制さえするのである。
たとえ華やかに見えようとも精神にとって美し
くない動きはしない、という強固な決意があるら
しい。それは民族の誇りへとつながる意思でも
あるのだろう。だがやがて内面の高まりが臨界
点へ近づいて、どうしようもなくその抑制を突き
崩す時がくる。流出?開花?飛しょう?内圧が
外圧を微妙に超える、ダンサーにとって最も美
しい瞬間である。とりわけ第二部の「ソレア・
ポルブレリアス」では、その鋭いひらめきを
ハッとするほど印象的に見せてくれた。 |
さて一方の阿藤久子は、日本フラメンコ・
ダンサーの中では際立って知性を感じさせる
舞踊家である。フォルムをメリハリ正しく丁
寧につづっていくその舞台づくりにも、彼女の
性格が出ているようだが、それはスペインの
伝統芸術に対する敬意の表れでもあるだろ
うし、この舞踊を自身の存在理由(レゾン・
デートル)にしている舞踊家の自尊の反映
でもあるだろう。
これは無論、彼女の重要な美質である。
だが、舞踊の真の力とは、実は理知を超え
る魔的な瞬間に現れるのではないだろうか。
ルイスがあのように美しく突き抜けた「臨
界点」を、彼女にも超えてもらいたいので
ある。この端正な舞踊家にその魔の一瞬
が訪れる時、美神はもっと深く彼女を愛す
ることになるだろう。 |